★昼下がりの酔鯨

 如月の昼下がり、お天道の陽光が窓辺の植物たちを隅々まで照らしている。北風はまだ吹き止まないでいた。僕は昼の八つから、土佐の純米酒”酔鯨”の入ったおちょこを傾けた。ここ東京でも高知のお酒を味わえるのはありがたい。けれど、この酒をここまで運ぶ為にいくらか地球を汚した事には違いなかった。「いわゆる発展とは...?」と疑問は量産されるが、回答は雲隠れである。いや、ときには単純明快であるとも言えるか。何故ならそれらの話には大抵、銭が絡んでいるからであった。音楽を奏でてそれを得る者もあれば、人を殺してそれを得る者もある。皆、多かれ少なかれ銭を稼がねば食っていけぬ仕組みが出来上がっている。恰もまやかしの如く、それは世に霞がかっている。特に都会ではその手段が実に多様であると言える。誰が良くて誰が悪いのかではなく、現在そういった仕組みの基に暮らしているだけの話でもある。ただ、先進国と呼ばれる国々にその傾向が甚だしいのは言うを待たないだろう。ともあれこの酒が、二酸化炭素等を大気に撒き散らしながら東京まで運ばれてきたのは事実であるし、同時に銭を産んだ事もまた相違ない筈である。


日本の政権は変わった。「自衛隊に四百億円の追加予算...、生活保護六百七十億円予算削減...」。ゴージャスさんからのメッセージが、マスの目を掻い潜って僕のポケットの中で鳴り響いた。そもそもマスメディアと情報局の関わりは如何なるものなのか?と言い出したらきりがないが、愚痴ではない。思い返すならば、日本という国は原爆も食らったし、原発も吹っ飛んだ。どう見積もっても遠い過去の話ではない。その都度、有り様が変わり、心模様が変わる。昨今の日本を見つめる世界の視点はやはりそこら辺にあると思われる。宮崎駿氏が描く世界はそれらを多いに内包しているし、大友克洋氏も同様に世界の終幕以降を描いていると言える。漫画は既に文化であるという。「最も進化した書物である」と唱えた人もあった。「何故、日本人は漫画文化を築けたのか?」と、また疑問が産まれた。しかしその応えとして、この国は"世界で唯一の経験者から成る民が暮らす列島であるから"だとは言えないだろうか...?


随分と酔いがまわってきたらしい。日中の酒は何故か効く。先刻観た、東ティモールのドキュメンタリー映画を思い出しながら回想を巡らせてみたが、とりとめを失いつつある。兎に角、僕はその映画を観て東ティモールという国が大好きになった。映画がどうであると言うより、人々に感動した。そして唄が素晴らしかった。来月、僕は南西の島へ行く。その島の唄も素晴らしい。しかし、現在その島は武装されている。何かの為に、まさにARMED ISLANDと化している。季節はうりずん。かつてこの弓なりの列島は”大きな輪っか"に包まれていたという。タイワン、オキナワ、ワ、ワッカナイ、すべて”大きな輪”を示唆する。僕は飛行機に乗って、地球を汚しながら空を飛ぶ事になるだろう。何が良くて何が悪いという話でもなく、何を感じるかなのだと思う。一年ぶりに友に会えると思うと心が沸き立つ。ぬる燗の片口が空いた。此処いらで擱筆しようと思う。少し傾いたお天道の光が、六畳一間に深く差し込んでいる。


関連する記事